【Erio Touwa become Rapper】3ヶ月ごとにお嫁さんを変えるあなたへ Part 2 【不定期更新】

Part 1→3ヶ月ごとにお嫁さんPart 1

何やら、重低音の音楽が我々の耳に届いた。

部屋に近づくにつれて、その音は大きくなった。

黒人のラッパーが、ラジカセを肩に乗せ、首には黄金のブリンブリンをつけている。
奏でる音楽は、差別から生まれた己の境遇を呪い、解放を望む。

そんなイメージを連想させるような、音の重みがあった。

我々と涼宮さん(28)が右側の部屋へと近づくに連れて、その音は存在感を主張しているかのように、響いてきた。

目の前には、樹齢何百年といったところか、年代を重ねた分厚そうな扉が立ちはだかっていた。

全ての部外者を拒絶するような意思の強さを感じさせる扉だった。

「ここが、右側の部屋のうちのひとつです。比較的症状の軽いヒロインが数人います」

涼宮さん(28)は言った。

「当時、持て囃され、可愛がられ、誕生日にはファンからケーキで祝ってもらう。そんな特権が彼女たちにはありました。時には、ファンが競うように彼女たちの可愛さを語り合い、自らの愛を主張するかのように、歪んだ愛情の形を、ネット上にアップすることもありました。」

でも、全ては過去のことなんです…。

涼宮さん(28)は、伏し目がちな様子で呟いた。

「扉を…」

(28)は呟き、

「開けますね。」

意を決した様子で、ドアノブに手を伸ばし、かつてのファンの愛の重さを示すかのように、ゆっくりと、部外者を拒むような速度で扉は開いた。

重低音が鳴り響く中に、彼女はいた。

不健康に見えるほどの肌の白さのまぶしさに、我々は一瞬、ひるんだ。

恐怖に似た感情が、我々の脳裏に浮かび、支配した。

「彼女は、藤和エリオさん。職業は、ラッパーです。」

(28)は言った。

サングラスをかけた藤和さんからは、その感情の全てを読み取ることはできない。

口元に浮かべた笑みが、不気味だった。

ただ、挑むような視線の強さを、サングラスの裏側から、我々は感じた。

「藤和さんは、数年前からJapanese Hip Hop singer NORIAKIさんに憧れて、この調子なんです。」

(28)はそう話した。

確かに、藤和さんのサングラス姿や、決めポーズには似ている点がある。

「藤和さんは、あなたたちが来ると聞いてから、ずっとこのポーズを保っていたんですよ。少しでも、自分の愛らしさや、健気さを表現したかったからかもしれません…。」

我々は、涙がこぼれそうになった。

それほどまでに、藤和さんは…。

藤和さんは、ラッパーを自称しているとはいえ、リリックを奏でるわけでもなく、我々を見つめるだけだった。

やはり、当時見せていた対人関係に遠慮がちな性格は、そのままであるようだった。

我々は涼宮さん同伴のもと、藤和さんからお話を伺った。

藤和さん曰く、毎日決まった時間に施設に訪れるイトコ(丹羽真)さんとお話する時間と、ピザを食べる時間が一番の楽しみとのこと。

ピザ友達のC.C.(シーツー。テレビアニメ、コードギアスでその愛らしさを提供してくれた)さんとピザを食べる時間がとても好きだという。

我々は、せっかくの機会だからと思い、C.C.さんへの取材も試みようとした。

しかし、それは叶わなかった。

(28)に即座に拒否されたのだ。

C.C.さんは現在、施設内にいる。

けれども、ピザの食べすぎで体型の変化が著しく、人前に姿を見せることは絶対にできないとのことだった。

残念な気持ちとともに、言い表せぬさみしさや哀しみ、そして時の経過の残酷さを感じた瞬間だった。

同時に我々は、何年も前の藤和さんの姿を思い出す。

©入間人間/アスキー・メディアワークス/『電波女と青春男』製作委員会

美少女という言葉は、まさに彼女のためにあるようなものだった。

それが現在、歌えもしないくせにRapperを自称し、目元を隠してひっそりと生活している。

それが、現在の藤和エリオだ。

口元に浮かべた笑みは、精一杯の強がりなのかもしれない。

目元のサングラスは、それを悟られないようにするための防具なのかもしれない。

我々は、藤和さんにかけるべき言葉を失い、沈黙した。

部屋には、不釣合いなほどの重低音が響き、異国の言語が飛び交っている。

居たたまれない気持ちになり、我々は部屋を出ることにした。

逃げ出したと表現したほうが正しい。

まだ、たくさんの部屋が残っている。

それは、他にもたくさんの旧支配者がここにいることを示している。

我々は、他の部屋に向かう前に、宅配ピザの注文をした。

少しでも藤和さんに心休まる、幸せな時間を過ごしてほしい一心だった。

藤和さんにお礼を述べたあと、次の部屋へと向かった。

しかし、我々の誰もが、帰りたい思いに押しつぶされそうになっていた。

後ろからは、重低音に混ざって、異国の言葉が聞こえてくる。

それとともに、藤和さんの姿が脳裏に浮かぶ。

ここで、逃げ出すわけにはいかない。

我々全員、そう思ったはずだ。

重たい足を引きずるようにしながら、我々と(28)は、前へ進む意志を新たにした。

Eillykun
不定期更新ですが、Part3を予定しています。

 

Article written by 西蔵 悠二