母「先生!この娘の母である私!生産者の顔が見えているんですよ。これほど安心できることって他にありますか?」【2039プロトタイプ】

こちらの記事の続きとなります。

「どうしてうちの娘のジゼルを買ってくれないんですか!」

「2時間2万で良いっているじゃないですか!」

「小学6年生の女の子!ジゼルと良い思いさせてやるから金くれって言ってんの!」

「よこせって!金!くれって言ってんの金をさ!!」

ここは職員室。

時代は2039年。

わたしのお母さんは、わたしの先生に、わたしの売春を持ちかけている。

(お願い…お母さん止めて…)

でも、わたしの思いは届かないんだ。

お母さんは、2039年のこの時代、わたしを育てることに懸命で、生きることに懸命すぎるんだ。

未来に進むほど、これまでの制度は通じなくなる。

ここ、2039年の世界ではそれが痛切に感じられる瞬間が何度もある。

(お母さん、止めてよ…。先生、困ってるから。)

わたしの思いは届かない。

2039年は、そういう世界なんだ。

誰でもいいです。

お願い。

お母さんを助けてください。

わたしのことは良いんです。

お母さんを助けてください。

お母さんを助けてください。

 

ちょっと前のこと

 

わたしのお母さんはわたしを産んでくれました。

育ててくれました。

わたしはとても感謝しています。

お父さんの顔は思い出せません。

物心がついたとき、お父さんはいませんでしたから。

それでも、わたしにはお母さんがいました。

小学6年生まで育ててくれたお母さんがいました。

お母さんは、わたしを育てるために、たくさんのことを犠牲にしてきたと、よく話しました。

元々、この時代に、子どもを産む気はまったくなかったと言います。

2039年。

この時代は、お金の価値がほとんど通用しなくなった世界だと歴史の授業で習いました。

昔なら、わたしが授業を受ける「クラス」には30人から40人の同級生がいることが常だったと聞きました。

今、クラスにいるのはほんの数人。

ここは2039年。

東京都中野区。

廃校と統合を繰り返した先に、一つに集約された学校がわたしの学びやです。

歴史の授業で習いました。

2039年は、都道府県のすべてが独立を望み、東京に敵対しているって。

それどころか、東京23区の足並みもバラバラで、それぞれの区が独立の道を模索しているって、先生が教えてくれたよ。

東京を囲む、埼玉、千葉、神奈川の裏切りの影響で、わたしが生きている2039年の東京は本当にどうしようもなくなっているんだって。

中野区も、独立したグンマの統治のために、戦力を割り振らないといけないんだって。

でも、そんな戦力はもう、ほとんどいないんだって。

他の都道府県の再統治に忙しくて、もうどうしようもないんだって。

それでね。

2039年では、もう、お金の価値がほとんどないんだって。

人が持ってる「idea」が、お金に勝るんだって、英語の先生と歴史の先生が教えてくれたよ。

3D Printerの普及率が、すごいことになっているんだ。

冷蔵庫や、炊飯器、電子レンジのような感覚で、今では3D Printerが必需品なんだって。

わたしのうちにはないよ。

でも、みんなはそれで、ideaをideaと交換しているんだって。

吉野家の牛丼。

わたし好きなんだ。

お母さんが、いつもボロボロに疲れて、深夜に帰宅すると、わたしに食べさせてくれるの。

それでね、普通は、吉野家の牛丼を食べたい人は、牛丼のレシピのideaと、食べたい人が持っているideaを交換するんだって。

牛丼のレシピをideaとして公開するとね、それが欲しい人は自分のideaを差し出して、データを交換するんだって。

物々交換に似ているって、先生が言っていたよ。

2039年の3D Printerって、何でもできちゃうんだって。

idea=データがあれば、何でも作れちゃうんだって。

固形状の、万能ソリッドを搭載した3D Printerは、そこからなんでも作れるって話。

でもね、わたしのお母さん。

交換できるideaをもっていないんだ。

だから、今もわずかに価値が生きているお金にすがらなきゃいけなくて、身を削るようにして働いている。

でも、それも限界みたいで、わたしが先生の相手をしてお金を稼ぐことになるかもしれないんだ。

それがこの2039年の、ひとつの現実。

交換できるideaを持たない弱者は、生きていくことすらままならない世界なんだ。

お金が一番強かった時代ってあったんだよね。

いいなぁってわたしは思うんだ。

そうすれば、お母さんもわたしも。

幸せに過ごせていたかもしれないって。

そんな風に、思うんだ。

 

先生の決断

 

先生は、眉間にシワを寄せながら、こう言ったんだ。

「分かりました。娘さんを買います。」

「ただ、娘さんを1日買います。」

「30万払いますよ。」

あぁ。

先生、わたしを買うんだって。

ううん。お母さん。

わたしは大丈夫だよ。

慣れているから。

こういう場面、こういう結果、こういう現実。

慣れているよ。

わたし、慣れているから。

お母さん、どうして泣くの?

泣かないで、お母さん。

わたし、慣れているから。

諦めることに、慣れているから。

すべての現実を諦めることに慣れているから、心配しないでね。

 

それは2039年の、来るべき未来。ある日のこと。

 

わたしは先生に買われた。

お母さんに売られた。

この先わたしの24時間のすべては、先生のもの。

わたしに選択権はないんだ。

 

それは予期せぬ出来事

 

ランドセルを背負って、わたしは学校を後にしたよ。

先生の車に乗って、先生のおうちにいく。

夕日に照らされた校庭のさびた遊具。

車窓から見える、人の気配がなくなった街路樹。

それらを過ぎた先に、先生のおうちがあったよ。

でもね。

先生ってば、ずっと口をつぐんで、何も話さないんだ。

おうちについても、なにもしてこないし、なにも話さないんだ。

「食べたいもの、ある?」

そう言って、わたしの食べたいものを3D Printerで作ってくれた。

わたしが美味しそうにそれを食べていると、先生は言ったんだ。

わたしに言ってくれたんだ。

「俺は、ジゼルを救えるかもしれない」

先生は考えるようにして、言い直しました。

いや。俺たちはジゼルを救えるかもしれない

そう言ってくれたんだ。

涙が溢れてきたよ。

「ジゼル。人生を諦めるにはあまりに早すぎる。」

わたしは、涙を止めることができませんでした。

 

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Article written by 2039 pictures